心がもっと叫ぶ方へ

次元を超えて、好きなものぜんぶ。

no title

言葉にならない。

どうしてあんなにがんばっている子に、どうして今なのか。

負けるなとか絶対とかがんばれとか、ゆっくりとか早くとか、私はうまく言えない。何も知らない。どれだけつらいだろうとか勝手に決めつけることもできない。私が傷つくのも何だか違うだろうとも思う。
言葉が溢れそうになるけど飲み込んで、書いて消して、結局私に言えることなんて何もなかった。大人になってもこんなにも何にもできないのかって空しくなる。私たちはこんな世界でも生きていかなければいけないのか。がっくりくる。


心と体が1番大事なのはその通りだと思う。
だけど、今はオリンピックなんかより、みたいな言葉を私はとても口にできない。

だって、どれだけの時間や想いやエネルギーをそこに注ぎ込んできた日々だったか、毎日毎日春も夏も秋も冬も泳いでいたのか、レースのあとにどんな表情で泣いたり笑ったりしていたか、ほんの少しだけど知っている。
レースは一瞬だけど、テレビで放送されるレースはほんのわずかだけど、トップの競泳選手は本当に毎日毎日泳いでる。いろんな国のいろんなプールで。年末まで、そして年始から。びっくりするくらい。


ピアニストが手の指を折ることと、私が手の指を折ることは、事実は同じでも意味合いが全く違う。
コンマ1秒を争う世界で戦っているカラダなんだ。
周りにいる大人はどれだけ、代われるものなら代わりたいと思っているだろう。


軽々しく期待を背負わせることもちがう。私たちの感情の行き場や、勝手なストーリーを彼女に押しつけることは絶対にちがう。


ただ彼女の近くにいる人たちが、みんなしゃんとして地に足をつけているように見えること(あくまで私からそう見えるだけで何もわからないのだけど)そして柔らかくいてくれることに私までとても救われている。そこに年齢なんて関係ないんだな。
プールで待ってるからね、って言葉を見たときしょうもないけど涙が出た。プールで待ってる仲間にしか絶対に言えないことだから。

誰もその人と全く同じ苦しみをわかちあってあげることはできないけど、同じものを目指す仲間や彼女のそばにいる人間だからこそおそれずに言える言葉がそこにはある。


彼女に特別な才能があるから、期待されているスイマーだからじゃなくて、彼女が特別がんばっている人だから、泣きながら笑いながら目指す場所に向かってきた女の子だから、才能の何倍も努力をしている人だから、だから悔しいしやるせないしショックだ。

伏せておくこともできた病名も本人の意志で公表して、自分の言葉で真っ先に伝えた。18歳の女の子なのにすごいことだと思う。だけどいつも強くなくてもいいから、強いときも弱いときもあっていいから、たくさん周囲を頼って、過ごしてほしい。


選手である前に一人の人間として、というある人の言葉にはハッとさせられた。
その通りだと思う。
選手である前に、彼女は彼女のままで一人の人間として誰かの大切な存在だ。そして何より彼女の人生は彼女自身のものだ。


いろんな人のいろんな立場、いろんな角度からの言葉や気持ちが、ほんの少しでも彼女にとってなにかよいものとしてありますように。